気まぐれな管理人による雑文サイト。Web小説「Rebirth」連載中 (笑)

Rebirth1 水没

2023年11月21日  2023年11月21日 

1 水没


199x年3月21日の土曜日、某所。

冷房の効いた屋内とはいえ、会場の外は気温40度近い猛暑だ。
屋外の熱気に呼応するように、プログラムの最高潮にさしかかった会場内の熱気もピークに達している。

やがて壇上に立つ司会者の威厳に満ちた声が会場に響き渡る。

「あなたは、イエス・キリストの犠牲に基づいて、自分の罪を悔い改め、ヤーヴェのご意志を行うためヤーヴェに献身しましたか?」

刹那の後、遠慮がちな声が応える。

―― …………はい

次の瞬間、会場全体に割れんばかりの拍手が鳴り響く。
僕はその会場の最前列に起立し、聴衆の熱烈な拍手と熱い視線を受けていた。

再び、司会者の声が会場全体に響く。

「あなたは、献身してバプテスマを受けることにより、自分が、神の霊に導かれている組織と交わるヤーヴェの証者の一人になることを理解していますか?」

―― はい!

先ほどの拍手に活力を得たのか、先ほどよりは力強い返答である。
再び、会場全体に割れんばかりの拍手。
ゆったりと、そして満足げに会場を見渡した壇上の司会者が高らかに宣言する。

「この二つの質問に対する、はっきりした肯定の答えは、あなた方が叙任された神の奉仕者であることを証明するものです。」

宣誓の後に捧げられた歌と祈りのおよそ15分後。
会場に併設されたビニールプールの中に僕は水没し、数秒の後に水から上げられた。
それは僕が「再び生まれた瞬間」であった。
同時にそれは、僕が「狭められた道に踏み入る決意を公にした瞬間」でもあった。

…と思っていた。。の方が、よりしっくりくるか。
あるいは「これこそ真理であり道である」と思い込むために、強いて自分自身を欺いていたのかもしれない。
はたまた母さんや「仲間たち」の喜ぶ顔が見たかっただけなのだろうか。
それとも、もしや僕は何も考えていない人形だったのか。

今となっては、そのときの真意は固く閉ざされた記憶の彼方である。

ただひとつ確かなこと。
岩壁のように強固だと感じていた、僕のアイデンティティが揺らぎ崩壊するXデーへのカウントダウンは、その日から静かに始まっていたのだ。

To be continued...

>>次話(2023/12/21更新予定)
お断り:このストーリーはフィクションで、特定の個人や団体を誹謗中傷するものではありません

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bell(@bellstown21
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